靭帯も運動で強くなる(市報のだ2月15日号掲載)

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ページ番号 1021836 更新日  令和5年8月15日 印刷 大きな文字で印刷

柳田教授の写真

 (監修:柳田信也先生)

東京理科大学の准教授、柳田信也先生にお聞きしました。

動きを作る関節の役割

私たちが身体を動かすとき、筋肉の働きとともに関節が必要となります。筋肉は、一方向の動き(伸びる・縮む)しかできませんので、さまざまな方向に骨格を動かすことができるのはいくつもの関節が形成されているからです。関節は、靭帯(じんたい)によって骨と骨をつなぐことで形成されています。このつなぎ役の靭帯があることによって、関節は外れずに固定されています。筋肉が作り出した力を骨が支えて、我々の身体は動きを作り出します。その筋肉と骨の結合に欠かせない役割を持っているのが靭帯や腱などの結合組織です。私たちの「運動」は筋肉や骨とともに、靭帯や腱、軟骨といった結合組織が複雑かつ巧妙に働くことで成り立っているのです。

膝関節の図
関節の内側

靭帯は、コラーゲンを主成分とする強い弾力性のある伸びにくい組織です。いくつものコラーゲンが線維状に並んで靭帯を形成します。この構造は、筋線維が束になって筋肉を作っていることと非常に類似しています。靭帯や腱では、コラーゲンが束になって密に並列していますが、成熟したこれらの組織には細胞がほとんど存在しないことがわかっています。結合組織にはコラーゲンという“物質”がたくさん集まっているだけであり、生命活動の主体となる細胞はわずかであるため、靭帯は酸素や栄養素をあまり必要としない組織です。これが筋肉との大きな違いです。そのため、血流はそれなりに保たれているものの、筋肉や骨とは比べ物にならないほどの少量です。このことは、筋肉や骨などの組織と比べると、靭帯や腱は体内環境の変化の影響を受けにくい組織であると言えます。一見すると、しっかりとした存在を確立しているように感じられるかもしれませんが、体内環境の影響を受けにくいということは、何らかの不具合、例えば損傷が起こったときなどにも変化しにくい、つまり、治りにくい組織であるとも言えます。筋肉が出した救助信号は、すぐに他の組織に伝わり、血流を通して救援物資が届きますが、靭帯にはそのための道路が無い状態と考えることができます。

例えば、不意に足を滑らしてしまったときなどは、筋肉だけでは関節にかかる力をコントロールできません。強靭な靭帯の働きで関節の可動域を制限することで、動作を安定させています。この制限を超えるほどの力が加わった場合、いわゆる捻挫や靭帯損傷が生じます。このような靭帯の傷害は、筋肉に起こる傷害と比べると極めて治りにくいものであると言えるでしょう。最近では、靭帯も自己修復力があるという説もありますが、自己やスポーツ傷害によって靭帯の断裂が起こった場合、再建手術を余儀なくされることが多いようです。

加齢と靭帯の強さ

加齢とともに膝などの関節痛に悩まされている人は少なくないのではないでしょうか。前述したとおり、靭帯や腱などは主にコラーゲンによって構成されています。また、強固な結合を作り上げるコラーゲンとともに、弾性(伸び縮みする)をもたらすエラスチンという成分も多く含まれています。靭帯には強く関節を保持する成分(コラーゲン)と靭帯に柔軟性を与える成分(エラスチン)の両方が存在するのです。このコラーゲンやエラスチンが加齢と共に減少していくことがわかっています。このことが、関節の柔軟性を低下させる要因となっています。しかし、この現象は高齢者だけにみられる訳ではないこともわかっています。骨折などによって膝をギプス固定した場合、若者であっても靭帯の硬さは著しく低下するといわれています。この際、おそらくエラスチンの減少やコラーゲンの変性が起こっていると考えられます。

高齢者のストレッチ
加齢による靭帯機能の低下は柔軟性の低下につながります

靭帯は鍛えられる

加齢による靭帯機能の低下は、関節の安定性や身体の柔軟性の低下につながります。そして、そのようなアンバランスな状態が続くと、膝をはじめとした関節痛の原因となります。また、運動中や事故、転倒などによって靭帯を傷害することによって、更なる運動機能の低下や慢性的な関節の障害を引き起こすと言われています。

注:運動やスポーツに関する学問分野では、急性のケガを傷害、慢性のケガを障害と呼びます。

そうならないために、どのような予防策があるでしょうか?

例えば、骨折をした若者が回復をした後のことを考えてみてください。骨折や重度の捻挫をされたご経験のある方は、その際のことを思い出していただいても良いかもしれません。ギプスを外した直後は確かに関節が柔軟性を失い、靭帯が硬くなると言われています。しかし、そのままの硬さが維持されるかというと、時間とともにその柔軟性は回復し、ケガをする前に近い状態に戻ると考えられます。つまり、靭帯は“一度失った柔軟性を回復する能力がある”と考えられます。実験的には、このことをサポートする事実が報告されています。特に腱においては多くの研究がなされていますが、靭帯においては比較的少ないようです。そのなかでも、実験動物に数週間のランニングを行わせると、膝の靭帯が変化するという報告が古くからなされています(Tiptonら,Medicine and Sports Science,1975年)。また、筋肉が肥大するには結合組織の細胞が強くなることが必須であるということを示した大変興味深い研究結果も報告されています(Turioら,American Journal of Physiology,1974年)。これらの過去の研究は、筋肉が肥大し、強い力を発揮するためにはそれを支える靭帯や腱なども強くならなければならないという事実を示しています。逆説的に言えば、筋肉が大きくなるという至極当然の事実によって、“靭帯は鍛えられる”という事実を示すことができると言えるでしょう。卵が先か鶏が先か、というような話になってしまいますが、筋肉と靭帯などの結合組織は同時並行的に鍛えられていると考えられます。筋肉によって引っ張られることで、その力に負けないように強くなるのが靭帯であるとすれば、筋肉を使うこと、つまり運動をしっかりと行うことで靭帯の機能は維持することができると言えます。加齢に伴う結合組織の機能の低下は、筋力の低下による身体活動量の減少に起因する部分が多いのではないかと考えられます。

結合組織と栄養

コラーゲンやエラスチンをサプリメントとして摂取することで、関節の働きを良くしようとする考え方は比較的古くから存在するようです。実際に、三重大学と林兼産業株式会社の共同研究によると、カツオ由来のエラスチンを摂取することで、膝の痛みが解消されたり、そのことが影響してか、日常的な歩数が増えたりする効果がみられたと報告されています(白土ら,グルコサミン研究,2015)。しかし、この研究は再生医療のための生体材料を研究する一環として実施されており、薬事的な働きや栄養補助的な働きを充分にうたうものではないと筆者らは注意を喚起しています。さまざまな栄養補助食品が開発、販売される昨今ですが、その効果については充分に精査する必要があると言えるでしょう。しかし、このような研究が増えることは大変喜ばしいことですし、今後の研究の発展に期待したいところです。

筋肉によって引っ張られるとじん帯は強くなる
靭帯も運動で強くなります

今月の内容をまとめるならば、「運動は筋肉や骨の量を増やすだけでなく、靭帯も強くする。」と言えます。特に、日常的に筋肉によって引っ張られることで靭帯は強くなります。また、ストレッチなどの柔軟性を高める運動も効果的です。市のシルバーリハビリ体操は、これらの要素を踏まえた簡単な体操ですので、ぜひ体験してみてください。

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