冬場でも脱水の危険性が(市報のだ12月15日号掲載)

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ページ番号 1024539 更新日  令和5年8月14日 印刷 大きな文字で印刷

監修
(監修:柳田信也先生)

東京理科大学の准教授、柳田信也先生にお聞きしました。

滝のよう流れる汗をかき、のどが渇く夏場は誰もが脱水症や熱中症に気を付ける季節かと思われます。しかし、実は脱水症は一年を通して気を付けなければならないものです。これは、外気温が低い冬場においても無縁ではなく、脱水はいつでも起こるという認識を持つことが大切です。

不感蒸泄

不感蒸泄

私たちは食物中の液体あるいは飲料から水分を主に摂取しています。一般成人において、食事から摂取する水分量は1日あたり約2100ミリリットル程度であると言われています。これに炭水化物が分解されるときに産生される水分(約200ミリリットル)を加えた2300ミリリットルが体内の水分量となります。身体の中に蓄えられているこれらの水分が減少すれば、脱水状態となることは言うまでもありません。この体水分量は非常に個人差、年齢差が大きいばかりではなく、気候や身体活動によって個人内でも大きく変動します。高温環境や運動を行った際など、体内に熱が産生される状態になると、発汗により熱を身体の外に逃がそうとし、そのための汗の蒸発によって体内から水分が失われていきます。この状態になると、私たちは意識的にも無意識的にも水分を欲するようになり、体水分が維持されます。この水分摂取が充分でないと、脱水症から熱中症を引き起こす原因となるのは言うまでもありません。これは非常によく知られた熱中症に関する理論であると思います。

一方、私たちの身体からは発汗とは全く異なり、正確に調整することができない水分の損失が常に起こっていることはあまり知られておりません。例えば、呼吸をすることによる肺での水分損失や皮膚からの発汗とは関係のない水分の蒸発が起こっていることなどが挙げられます。これらの水分損失は1日約700ミリリットルから1リットルにも及ぶと考えられています。この水分の損失は、私たちが感じることができない状態で起こっているため、不感蒸泄(もしくは不感蒸散)と呼ばれています。この不感蒸泄はもちろん特別なことをしなくてもすべての人で生じている現象です。言い換えるならば、私たちは何もしなくても牛乳パック1本分ぐらいの水分を失っているということができます。「特に運動をしていないから」とか、「トイレに行くのが億劫だから」などの理由で水分摂取を控えると体水分量が思っている以上に低下している恐れがあります。一般的には食事から充分な水分を摂取することができていると考えられるため、特別な水分摂取を追加で検討する必要性がある人はそれほど多くありませんが、高齢の方は体水分調節能力が低下していることに加えて、前述したような水分を控える行動を実践している傾向が強いため、注意が必要です。

graph
1日の水分摂取と排出量のバランス(激しい運動を行っていない場合の例) ガイトン生理学を参考に筆者が作図

冬場の脱水

この不感蒸泄は、夏場よりも冬の方が多くなる傾向があります。特に肺からの水分損失が冬は明確に増加します。外気温が低いことによって大気中の水蒸気圧が減少し、肺からの水分放出が増加するためです。これは、さまざまな物質は濃度の高い方から低い方へと移動する物理化学的特性、「拡散」によって不感蒸散が行われていることが原因です。寒い季節は水分摂取が減少しやすい傾向にあるかと思います。気温が低いから安全だと思っている人も多いのではないでしょうか。油断することなく、適度な水分摂取を心掛けることが必要です。

不感蒸泄の増加も確かに冬場の脱水のリスクを高めますが、この季節に最も注意しなければならないことは、ウイルスや細菌感染によって発症した下痢や嘔吐などの症状から脱水症を発症することであると言えます。あまり知られていませんが「冬の脱水症」は暑熱環境における脱水症と同等に注意が必要です。インフルエンザなどで高熱が出てしまった場合などは積極的に水分を摂取しようとするのが一般的であるかと思います。しかし、ノロウイルスなどに感染し、激しい下痢が起こっている状態などにおいて、下痢の症状が続くことを懸念して水分を積極的に摂取しようとしないケースが見られるようです。これは赤ちゃんや小さいお子さんの場合においても同様の心配があります。ウイルス感染に伴うような下痢の症状は極度の脱水を引き起こす可能性があります。健常な時よりも多くの水分摂取が必須となります。

経口補水液とスポーツドリンク

水分摂取をするうえで、スポーツドリンクが効果的なツールであることはよくご存じかと思います。一方、最近、CMなどで熱中症対策ツールとして経口補水液を目にすることも多いのではないかと思います。一体、スポーツドリンクと経口補水液は何が違うのでしょうか。これは、私たちの身体の中の水分に含まれる成分に関係しています。ヒトの身体はおよそ65パーセントが水でできています。しかし、この水は真水ではありません。電解質と呼ばれるナトリウムイオンやカリウムイオンが含まれている液体で我々の身体は包まれています。これは生物がこの世に生まれた原始の時代、単細胞生物が海の中で発生したことに由来すると言われており、私たちの身体の中の水分はまるで海のような液体で構成されていると考えられています。単細胞生物が海の中にぷかぷかと浮いていたように、私たちの身体の中にある無数の細胞は海のような液体で満たされているのです。具体的には、血液をはじめとした体液が海のような役割をしていると言えるでしょう。これは細胞の活動性を保つために非常に大切なすみ分けとなっています。ヒトをはじめとした生物は細胞の内部と細胞の外部(血液など)で電解質の濃度を明確に分けることによって、活動と非活動を変化させています。

ヒトの細胞(組成)
ヒトの細胞

我々の細胞の中はカリウムイオンが多く、細胞の外(血液や体液)にはナトリウムイオンが多い状態が安静の状態です。汗は体液の一部と考えられます。暑熱環境や運動によって発汗が起こると、体内の水分が皮膚から汗として放出され、蒸発して熱を奪っていきます。その結果、身体の中から水分が失われていくのが脱水症です。お気づきかと思いますが、体液が失われるということはそこに含まれていたナトリウムイオンも失われることになります。スポーツドリンクはこのナトリウムイオン濃度とほぼ同じにできており、汗で失われた血液や体液の水分をそのまま補うことができるものです。

一方、経口補水液はどのようなものかというと、経口補水液にはカリウムイオンが多く含まれております。スポーツドリンクにはカリウムはあまり含まれておりません。勘の良い方はお判りでしょうが、経口補水液は前述したような細胞の中の液体を補うために開発されたものです。ウイルス性の下痢や熱中症が進行してしまっている場合、私たちの身体の中の水分は血液や体液のみでは足りずに、細胞の中の水分まで外に出してしまいます。その結果、細胞の中まで脱水状態になってしまい、非常に危険な状態となります。重症度の高い熱中症ではこの状態が悪化しているものであると考えられます。つまり、経口補水液は通常の水分摂取ではなく、かなり深刻な状態に対応するための飲料であるという理解が必要です。平常程度の暑熱環境において、ちょっとのどが渇いたから、と経口補水液を摂取する必要はありませんし、むしろその程度の状態には経口補水液は濃すぎる水分となってしまいます。この使い分けについては充分な知識と理解が必要です。

細胞

高齢者と脱水症

高齢者の体水分量は一般成人と比べて10パーセント程度少ないと言われています。このことは、若年層と比べると脱水症になりやすい状態であるということを意味しています。また、神経機能の減衰により、口渇感も覚えにくいと言われています。これは体水分を調整する神経の働きが、体水分量の低下とともに鈍ってくるからであると考えられています。加齢とともに意識的に水分摂取を行わないと、一年を通して脱水の危険が高い状態となってしまいます。特に、糖尿病や高血圧の薬を飲んでいる人は、これらの薬の利尿作用によって水分を体外へ排出しやすい状態が起こっているため、極めて注意が必要です。さらに、“身体を冷やすといけない”、“トイレに行くのが億劫だから”などの理由で意識的に水分を控えようとする行動をとられる方も見受けられます。私たちの身体の65パーセントは水分です。知らぬ間に、この成分がどんどん抜けていっている、という意識をしっかりと持って、常に一定量の水分を摂取するように気を付けて生活をしましょう。

高齢者と脱水症チェックシート
チェック 項目内容

体水分量の減少

(体組成計で測れるものがありますが、加齢に伴い避けられない項目)
口渇感を覚えにくい
咀嚼や嚥下の問題があり、食事が充分にとれない(食事からの水分摂取が減少)
糖尿病や高血圧に対する投薬治療をしている
水分を控える行動をしている
身体を冷やさないように常に気を使っている

全てが当てはまった人は要注意です。季節に関係なく水分摂取を心掛けましょう。

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