お口の健康が全身の健康(市報のだ10月15日号掲載)

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ページ番号 1024039 更新日  令和5年8月15日 印刷 大きな文字で印刷

柳田先生
(監修:柳田信也先生)

東京理科大学の准教授、柳田信也先生にお聞きしました。

現在の日本は高齢“化”社会ではなく、高齢社会もしくは超高齢社会であると言われています。人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、平成28年時点で27.3パーセント、3461万人であると報告されています(総務省統計)。この割合は、主要国の中で最も高い値であるとともに、さらに増加していく予測となっています。健康で豊かな生活を送る上で、健康寿命(医療・介護などに依存せずに自立した生活ができる生存期間)の延伸が重要であることは言うまでもありません。健康寿命の延伸は国家をあげて取り組まねばならないプロジェクトであるといえます。さらに、できることであれば、ただ長く生きるのではなく、目標を持ちイキイキと生活するための、生活の質(QOL; Quality of Life)の向上を目指したいものです。このQOLの向上や維持に対して、極めて重要なものの一つが口腔内(お口)の健康であると考えられます。

健康日本21と口腔内の健康

健康増進法に基づき策定された「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」、いわゆる『健康日本21』が施行されて20年が過ぎようとしています(改定を含む)。この「健康日本21」は健康寿命の延伸を大きな柱に据え、さまざまな施策を示しています。特にこの施策の特徴は、明確な数値目標を示したことであり、9つの分野において具体的な目標が数値として示されています。その9つの分野は、「栄養」「運動」「休養」「こころの健康」「たばこ」「アルコール」「糖尿病」「循環器病」「がん」、そして「歯の健康」です。歯の健康の分野では、“8020運動”がスローガンとして掲げられました。これは“生涯にわたり自分の歯を20歯以上保つことにより健全な咀嚼(そしゃく)能力を維持し、健やかで楽しい生活をすごそう”というものです。実際に多くの研究において、機能的に咀嚼に使用することができる歯が20本以下になると咀嚼の機能が著しく低下することが報告されています。下の図は20本以上の歯の本数と咀嚼の能力の関係性を示したものです。年齢とともに歯の保有数は減少していきますが、それに伴って何でも噛んで食べることができるという能力が低下していくことが明確にわかります(平成29年度国民健康・栄養調査より筆者が作図)。そして、20本以上の歯の保有者の割合と何でも噛んで食べることができる人の数が確かに対応している傾向がみられます。

図1

この問題は、高齢社会において解決すべき健康課題であるため、前述した健康日本21の8020運動のテーマ設定につながりました。健康日本21では、咀嚼機能を維持していくという観点から以下のような目標が設定されました。もちろん高齢になってから対策を講じても充分な効果を得ることができるものではありません。幼少期から継続した教育、啓蒙活動が必要な内容であると思います。

歯の喪失防止の目標
  基準

割合

目標値 80歳における20歯以上の自分の歯を有する者 20パーセント以上
60歳における24歯以上の自分の歯を有する者 50パーセント以上
基準値 20歯以上の自分の歯を有する者(75歳から84歳まで) 11.5パーセント
24歯以上の自分の歯を有する者 (55歳から64歳まで) 44.1パーセント

80歳における20歯以上の自分の歯を有する者の割合及び60歳における24歯以上の自分の歯を有する者の割合の増加

咀嚼と栄養摂取

口腔から食道、胃や腸を通り、肛門までの消化器官は、私たちの内臓において唯一、外界と出入り口ともにつながっている器官系であると言えます。生き物がその生命を維持するためには栄養を摂取して、不要なものを排泄するという流れが必須です。そのように極めて生命に重要な消化器官のスタートである口腔は健康維持のスタート地点であると考えられます。

新潟県において行われた疫学調査の分析をした研究では、機能的な歯が20本を下回るとステーキやイカ、せんべい、たくあんなどの堅い食品が噛めなくなるというデータが示されました(矢野ら,口腔衛生学会誌,1993)。堅いものが食べにくくなると当然のことながら柔らかいものを選んで食べるようになることが予想され、必要な栄養素を充分に摂取することができない可能性が考えられます。厚生労働省のデータを基に分析をしてみると、噛めないものがあると回答した人において、加齢とともに痩せすぎの人が増えていくことがわかりました(平成29年国民健康・栄養調査から筆者が分析・作図)。一方で、BMIが20を超えている適正体重の人においては、この傾向が少ないようです。(BMIとは身長(m)を二乗した値で体重を割った数値であり、痩せすぎや肥満の指標です。一般的な基準としては18.5以下が低体重の指標となりますが、高齢者の場合、20以上が望ましいと考えられています。)

図2

図3

やはり、充分な咀嚼機能が備わっていないと、私たちは低栄養になり、痩せていってしまうと考えられます。特に、高齢期は過度な肥満でなければ体重の減少は体力の低下につながり、健康管理上の問題となります。口腔内の健康を保つことは全身の健康とつながっていると言えます。さらに、好きなものや食べたいものを食べられないという精神的なストレスや堅いものを噛むことができないことによる社会的心理的な劣等感なども増加することが予想されます。

咀嚼と表情、こころの健康

咀嚼は栄養素を摂取するスタートとなるばかりではなく、こころの健康にも大きく影響します。それは顔の筋肉を使うことと関連します。咀嚼運動には咀嚼筋と呼ばれる、側頭筋や咬筋、内・外側翼突筋が主に使われます。これらの筋群が顎関節を動かし、前後左右のすり合わせ運動を行い、そこに舌や歯、唇や口蓋が協調的に働くことで咀嚼という複雑な運動が行われています。

図4

一方で、咀嚼運動は咀嚼筋のみで行うわけではないという事実もあります。顔面神経が支配する口輪筋、頬筋などが食物を吸う動きや頬にため込む動きに関連します。口輪筋や頬筋は表情筋と呼ばれ、私たちの表情を形成することにも重要な役割を持っています。咀嚼という動作は極めてたくさんの顔面筋が収縮をすることで実現していることがわかります。

図5

また、咀嚼に表情筋を使うということは、日々の生活でよく噛んで食事をしている人は顔の筋肉が充分に鍛えられている可能性があります。加齢とともに顔面筋の働きが衰え、表情が冴えなくなることは少なくありません。顔の筋肉にハリがあり、引き締まっていることはイキイキした表情にもつながり、こころの健康に大きく影響すると考えられます。また、良い表情は人間関係にも好影響を及ぼすものと推測されます。安藤ら(J. Natl. Inst. Public Health, 52 (1) : 2003)がまとめた総説によると、FaceScaleという顔の表情から生活の充実度(QOL)を推定する研究手法を用いて、QOLと咀嚼能力の関係性を調査したところ、咀嚼能力が高い人は表情から読み取られるQOLが高いことが示されました。何でも良く噛んで食べることができる人は、良い表情をしており、精神的にも社会的にも良好な生活を送っていることが推測されます。

ここまで述べてきたように、お口の健康は多角的に全身の健康に影響を及ぼします。定期的に歯の健康管理に留意し、お口から始まる健康増進に取り組みましょう。

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